これ、初めてのフルサイズ機に最適かもしれない。フルサイズセンサー搭載のミラーレス一眼が続々とラインアップを拡げる中、上位機は高性能だけどいきなり手を出すにはちょっと価格が高いし、そこまでの性能はいらないし、かといって本格的な撮影できるカメラが欲しいし、という人にぴったりなのである。

それがニコンの「Z 5」。ニコンのZシリーズ第4弾。1台はAPS-CセンサーのZ 50なので、フルサイズって意味では第3弾になる。

8月末に発売したニコン「Z 5」。Z 6/7とほぼ同じサイズでデザインテイストや操作感も同じだ

全体のシルエットや持った感じはZ 6/7と同じで質量も約675gとZ 6と同じ。特に小さいわけじゃない。

でもボディ単体で20万円を切る魅力的な価格での登場だ。同時に軽量レンズも登場したので、それらと組み合わせるとかなり軽快に使える。

注目ポイントは、何を削って何を残したか。そこにニコンらしさがあるのだ。

SDカードのデュアルスロットになってより扱いやすく

Nikon Z 5はZマウントを採用するニコンのフルサイズセンサー搭載ミラーレス一眼である。

Z 5の魅力は、Zシリーズの良い点をしっかり受け継ぎつつ、スタンダードで低価格であることだ。スタンダードってなんだよ、って話だけれども、例えば記録メディア。

Z 6/7はXQDカード(現在はファームウェアバージョンアップでCF Express Type-Bにも対応済み)のシングルスロットだった。このメディアは大容量で読み書きがめちゃ速いのだが、いかんせん高価。Z 5はSDカードのデュアルスロットと、極めてスタンダードだ。高速撮影必須な人じゃない限り、その方が手持ちのカードを使えるし安いし入手しやすいしでありがたい。

グリップ部にSDカードスロットが2つ搭載されたデュアルスロットとなった

上部の情報表示モニターも省かれた。あれば便利だけどなければないで困らない代物。ミラーレス一眼ではむしろないほうがスタンダードだ。詳細な情報は背面モニターでチェックできるし。

上面から。表示パネルの代わりに撮影モードダイヤルが置かれ、左肩は空きスペースになったのが大きな違いだ

連写性能も抑えられた。Z 6/7では最高で約20コマ/秒を実現していたが、Z 5は約4.5コマ/秒にとどまっている。

逆に削らなかった点にも注目したい。

まず操作系。背面や前面のデザインはZ 6/7とまったく同じで、サブセレクター(スティック)も用意されている。Z 6/7のサブ機として使ってもまったく違和感はないはずだ。

防塵防滴機構も継承している。

背面から。円形の十字キーとスティックタイプのサブセレクター、右上の電子ダイヤルなのレイアウトはZ 6/7と同じだ

グリップ奥のFn1/2キーも継承。Fn2キーは位置的に薬指を伸ばすことになるのでちょっと押しづらい

モニターも昨今増えつつあるバリアングル式ではなく、伝統のチルト式である。

伝統のシンプルなチルト式。とっさにローアングルやハイアングルに切り替えられるのが良い点

ニコンらしいのはモニターとEVF。

背面モニターは104万ピクセルとZ 6/7の約半分に。要するにモニターのクオリティーは落としてきたのだ。

でもEVFのクオリティーは維持。Z 6/7と同じく0.5型で約369万ピクセルのOLED(有機EL)を採用しているのだ。パネルのみならず、ファインダー内の光学系もしっかりしており、非常に大きくて見やすい。

このクラスのカメラとしては非常に大きくて四隅までしっかり見えている優秀なEVFだ。これは瞳検出が働いているところ

背面モニターはコストダウンしてもEVFのクオリティーは落とさない、というのがファインダーを大事にするニコンの矜恃(きょうじ)なのである。これは素晴らしい。集中して撮るときはEVFの方が大事だ。

続いてボディ内5軸手ブレ補正の搭載。これも上位モデルと同じ約5段の補正をしてくれる。これは大事だ。

正面から。大きなZマウントの奥にあるセンサーがシフトして手ブレを補正する。画素数は2432万画素

キヤノンがEOS R5/6で「8段分の補正」を実現したので5段でも十分に実用的。もはや、ミラーレス一眼にボディ内手ブレ補正はスタンダードであるといって問題あるまい。

人間の瞳にも動物の瞳にも対応するAF

だがしかし、イメージセンサーは変更された。

画素数こそZ 6とほぼ同じだが、Z 6が裏面照射型だったのに対し、Z 5は従来型だ。

でもまあ通常の撮影だとまったく気にしなくていい。さすが、フルサイズセンサーミラーレス機の写りで、階調も豊かだし色もしっかりしてるし、ボケもきれいだ。

では実際に撮ってみたい。

レンズはZ 5と同時に登場した沈胴式の薄くて軽いレンズ。24-50mmの広角系ズームでF4-6.3。ボディと合わせて約870と軽く、レンズを沈胴させると携帯性も高い。

Z 6/7発表時は画質重視をアピールすべくクオリティーは高いけど少々重くて高価なレンズ(S-line)が中心だったが、ここにきて小型軽量レンズも登場し始めたのだ。

Z 5と24-50mmだとこれだけコンパクトで軽量。なおレンズフードは別売

小型軽量だがF4.-6.3と開放F値を抑え気味にしたおかげか、クオリティーは高く周辺部の画質劣化も気にならない。日常スナップ用にすごくいい。大事なのは、撮りたいときにカメラが手元にあってすぐ取り出せることだからね。

広角端でいつものガスタンク。ディテールもしっかりしてるし、タンクのグラデーションも滑らか(24-50mm 24mm 1/500秒 F8 ISO100)

こちらは室内で、絞り優先AEでかきごおり。かき氷を白く見せるべく+1の補正をかけてある。かき氷を目立たず手早く撮れるのは小型軽量レンズの良さだ。

ほわっとしたかき氷。自然光オートで。小さなレンズだがボケもきれいでハイライト部もしっかり残っている(24-50mm 46mm 1/50秒 F6 +1 ISO560)

このかき氷は室内ながら昼間の窓の近くの席だったのでAWBは「自然光オート」にしている。

ホワイトバランスは「オート」のバリエーションが豊富。

実はAWBだけでも、オートでAUTO0から2(白を優先する、雰囲気を残す、電球色を残す)、さらに屋外に向いた自然光オートの合計4つがあり、使い分けることができるのだ。

室内など色温度が低い場所や日陰など色温度が高い場所以外は自然光オートにしておくとナチュラルな写りを楽しめる。

AFは像面位相差AFで測距点は273点とZ 6と同じ。AFポイントはサブセレクタで動かせるほか、タッチAFも使える(ただし背面モニター使用時のみ。ファインダーをのぞきながらのタッチAFは未対応)。

もちろん、Z 6/7のファームウェア2.0で対応した瞳AF、3.0で対応した動物瞳AFも対応している。

瞳検出でローアングルの広角スナップ。発色が自然でよい(24-50mm 24mm 1/400秒 F4 ISO100)

35mmF1.8を装着し、室内で自然光オート。

やや赤みが強いのは自然光オートで撮っているため(35mm 1/100秒 F1.8 ISO100)

動物を撮りたいときは「動物認識」をオンにする。このとき、人間の瞳には合わなくなる(試したところ、合わないことはないが、人間の認識率がぐっと落ちる)のはちょっと残念だ。

オートエリアAF時の顔と瞳認識の中に「動物認識する」がある

さて、24-50mmではちょっと不満、という人にお勧めなのが24-200mmの高倍率ズームレンズ。S-lineではないが、価格も手頃で軽量だ。

2020年7月に発売された「NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR」は超便利な高倍率ズーム。570gと軽量でコンパクトだ。

これがZ 5に似合うのである。写りもいいし。

さて、さきほどセンサーが裏面照射型ではなくなったという話をした。その分、高感度時の画質はどうか。

ISO感度は最高でISO51200でさらに拡張ISO感度としてHi1(102400相当)があって、スペック上はZ 6と同じだしノイズも目立たないけれども、ちょっとノイズ低減処理が強い(つまりディテールの解像感が落ちる)かなという感じだ。Z 6ではHi2(ISO204800相当)が用意されているが、Z 5ではHi1どまりとなっている。

で、ISO25600で撮ったのがこちら。オートで撮影。露出補正もしてないので月が白くトんでいるが、団地と夜空という雰囲気がよかったので。

ISO25600で撮った夜空。月は白トビしてるがその周りの木星や土星(たぶん)はしっかり撮れている(24-50mm 1/25秒 F4.0 ISO25600)

気になったのは暗所でのAF。Z 6/7に比べて暗い場所に弱い。ある程度以上暗くなると、ローライトAFに切り替わって(設定でオンにしておく必要がある)コントラスト検出で時間をかけて合わせてくれるが、深夜の駐車場で猫を撮ろうなんて人は要注意である(レアなケースだというのは承知しております)。

軽量なシステム、一緒に外出したくなるミラーレス一眼

なお、バッテリーの持ちはZ 6よりちょっと良くなってるし、USB Type-C端子を使ったUSB PD充電に加え、USB給電(給電しながらの撮影)にも対応した。

スマートフォン連携はお馴染みの「SnapBridge」を使い、Bluetoothで常時接続しておくと位置情報も自動的に取得してくれるなど、イマドキのカメラならではの機能もしっかり持っている。

何より、この価格に抑えながら安っぽくなってないし、前述したようにコストダウンするところとしないところの切り分けが素晴らしい。特に上位機種と同じ操作系、ボディ内手ブレ補正とEVFのクオリティーを守っているので安心して使えるのが魅力的だ。

キットレンズの24-50mmや、7月に発売された24-200mmといった小型軽量なシリーズを装着して気軽に撮影に出かけたいカメラである。