Microsoftの「Surface Duo」は、在宅勤務時代の今にふさわしい小型デバイスのように、初めは思える。画面が2つになって広くなり、複数のアプリを使える。スマートフォンにもタブレットにもなる(そう、これはSIMカードなどを搭載したれっきとしたスマートフォンだ)。そして価格が1399.99ドル(約14万7000円)とくれば、購買意欲をそそられる。筆者は2画面スマートフォンに魅力を感じたことはなかったが、Surface Duoは役に立つ根拠がしっかりあると思わせる形で登場した。
外見上は、期待できそうだった。手に持った感じやヒンジもいい。だが、問題は、中身も外見と同じように良いかどうかだ。筆者がSurface Duoを使っていた間は、未完成としか思えないソフトウェアのせいで試練続きだった。今のところ、2画面の価値を感じられるとは言えない。
確かに、良い点はある。手にした感じと形は魅力的だ。ディスプレイを折り曲げることで自立させることができるのも、普通のスマートフォンと違うところだ。画面がもうひとつあるのは便利で、思わず役に立つことはあるが、筆者としては予想していたほど必要性を感じなかった。TwitterやSlackを使う際には便利だが、キーボード入力を伴うマルチタスクは思い通りにはいかない。そして、2画面というのが煩わしくなったときには、折りたたんで1画面のスマートフォンとして使うこともできる。その点は文句なしなのだが、それでは、そもそもSurface Duoを買う意味がないだろう。
一方、Surface Duoとほぼ同時期に、サムスンの「Galaxy Z Fold2」が発表されている。1999.99ドルと価格はもっと高く、厚みもあるが、ほぼ折り目なしの折りたたみ式ディスプレイとマルチカメラを採用し、5Gに対応、プロセッサー性能が高くRAMも多い。折りたたみ式スマートフォンへの取り組みの2年目に入ったサムスンが打ち出した製品、それがGalaxy Z Fold2だ。それに比べると、Surface Duoはアイデアの製品化にあと1年かけるべきだったという印象をぬぐえない。だが、仮にGalaxy Z Fold2の発表がなかったとしても、Surface Duoにはいろいろな面で不満が残っただろう。
以下に、この製品に対する筆者の心境をまとめてみた。Surface Duoを受け入れるまでの、5段階の心境の変化だ。
第1段階:なんて美しいデザインだろう
全体がガラスと金属製で、ヒンジもなめらかに動く。Surface Duoの形状は筆者も納得できたし、こうした2画面折りたたみ式という方向性は正しいかもしれないと思わせる。未来的というわけではないが、不思議と実用的ではないだろうか。本のようにも、ミニノートPCにも、さらには「ニンテンドー3DS」のようにも見える。サイズは妥当で、高評価を得られそうだ。
ディスプレイは良質だ。5.6インチ、1800×1350ピクセルのAMOLEDで、画質は鮮明、色合いもいい。2面を合わせると対角線が8.1インチとなり、「iPad mini」に近くなる。
この時点で既に、どうやって持つべきか、どう保護するのかと疑問に思い始めた。製品にはゴム製のバンパーが付属している。付けたくはないのだが、付けるしかないことは分かる。すべり止めになるからだ。そのままではポケットからすべり落ちて床を直撃しそうで不安になる(バンパーを付けると、それが勝手に外れたりすることもない)。
第2段階:なぜ、どれもこれもうまく動かないのか
新しいデバイスにはガイダンスや特別なサポート、分かりやすいチュートリアルが必要だ。「Nintendo Switch」や初代の「iPhone」「Oculus Quest」がいずれもそうだった。ユーザーは、慣れ親しんできた使用感から脱しなければならなくなるが、代わりに、メーカーは特別なツールやソフトウェアを提供して新しい使い方に導き入れてくれる。これらのデバイスでは、そうしたデバイスに慣れるためのステップを楽しむことができた。別世界に連れて行かれるような気分がしたものだ。だから、慣れが必要な新しいツールを習得するのを楽しめたのだ。
MicrosoftのSurface Duoにも、同じような導入ツール、独自のソフトウェア、ちょっとした工夫が必要だ。それが、この時点ではまだ示されていない。画面上の移動に必要なスワイプとジェスチャーについては簡単なチュートリアルがあり、その後で2種類のサインインが求められる。Microsoftのアプリケーションエコシステムへのログインと、Googleおよび「Android」へのログインだ。ログインすると、Androidスマートフォンと同じように起動する。実際Androidスマートフォンなのだから当たり前ではあるが。だが、Android機能の一部が、Surface Duoの機能にまだ対応していないよう感じられる。
筆者が使ってきたレビュー機では、初期のソフトウェアが期待どおりに動作せず、使うのをやめたいと思うことがあった。最近アップデートされたプレリリース版では、全くだめだった問題がかなり改善されている。だが、画面の向きに関しては、動きが遅れるなどの不具合がまだあり、そこまで気持ちよく使っていた体験が台無しになってしまう。ただアプリを開きたい、別の画面に移動したい、1画面に戻したい、それだけの操作に画面の動きが追いついかない。
まだ新しいインターフェースに進化する過程だから、なのかもしれない。あるいは、筆者自身が慣れようとしている過程にいるからなのかもしれない。普通のスマートフォンの2倍になったように見せかけることで、Surface Duoは、今も筆者が抱えている、インターフェースに対する大きな疑問をかわしているように思えるが、その疑問は解決されたわけではない。
第3段階:そもそも、どうやって使うの、これ
大きい画面を折りたたんでポケットにしまえるというアイデアは理解できる。「Galaxy Fold」や「Galaxy Z Flip」の謳い文句もそこだ。2つの画面があるならアプリの連動も可能ということになるが、それほどうまく動くアプリは多くない。というより、実際にはMicrosoftアプリのスイートくらいであり、しかもそのすべての機能を利用するには「Microsoft 365」のサブスクリプションが必要になる。
筆者が使っているレビュー機と初期のソフトウェアは、動作が遅れる感じがするだけでなく、インターフェースにおかしい点があり、操作がかなり難航する。「Slack」と「Gmail」を試したところ、うまく動いたが、それもキーボードを開くまでだった。どちらかの画面にキーボードを表示して親指でスワイプしようとする、あるいは端末の向きを変えて入力しようとすると、たちまち画面が反応しなくなる。
Zoomも動く。Zoomに加えて、ブラウザーなど文字を読むウィンドウを同時に使っている分には問題ない。だがこのときも、何か入力しようとするとキーボードが開き、使っていたアプリの画面を占有してしまったり、作業のフローを中断してしまったりする。
筆者は何度となくキーボードを開く。書きものをしたりメモをとったりするのが一番の仕事なので、それは当然だ。今のところ、Surface Duoでは、キーボードを開くたびに奇妙なことになる。
Surface Duoのマルチタスクフローのいくつかは、iPadでのマルチタスクを思わせるものがある。画面の下部にある小さなつまみを使って、アプリをどちらかの画面まで移動するか、使っているアプリの上に別のアプリをドラッグしてサイズを調整する。画面の下部にはアプリが6個並んだクイック起動のドックがあって、これも便利なはずだが、筆者はもっと多くのアプリを並べたい。Androidのアプリドロワーからアプリを探すのはやや不便である。
新しいデバイスには新しいソフトウェアが必要だ。そのプラットフォーム向けに新たに開発されたゲームやアプリがあれば、動作の特徴やおもしろい点がすぐに分かる。Surface Duoに欠けているのは、そういう、システムを売り込めるようなアプリだ。Microsoftのコアアプリでさえ、依然としてバグだらけで、Surface Duoでは動きがおかしく、機能も限られる。例えば、アプリ間でテキストはドラッグできるが、画像はドラッグできない。「Surfaceペン」(別売。ぜひ付属してほしい)でメモは書けるが、Android上の汎用的な注釈ツールのようには感じられない。アプリウィンドウのサイズが自動的に変わらないこともある。1画面から2画面への切り替えは、魔法のように一瞬ではなく、ぎこちない。
より小型のSurfaceペンが付属し、「Galaxy Note」のように本体のどこかに収納できるようになっていれば、小さいノートのように感じられるのだろう。Googleのコアの生産性アプリを、Microsoftのコアアプリと同じように使えて、両方を同じように管理できれば、その機能は「Windows」とAndroidの橋渡しになるだろう。もっと高性能で多機能なカメラを搭載していれば、仕事でもチャットでも次世代のビデオ会議ツールになるかもしれない。だが、現時点のSurface Duoは、そのどれにもなっていない。継ぎ目のない大画面にならない点も残念だ。そうなっていれば、映画も鑑賞できる。Surface Duoで映画を見ようと思ったら、真ん中に大きな線が入ってしまう、あるいはどちらのガラス面にも大きなベゼルがあるのを覚悟で見なければならない。これは、一体型の折りたたみ式画面のほうが有利な点だ。
第4段階:従来の快適なスマートフォンが恋しくなった
新しいデバイスがこれほど使いにくければ、使うのをやめてしまうだろう。初代「Apple Watch」はアプリの起動がとても遅かったので、筆者は結局iPhoneに戻った。Surface Duoで電子メールやSlack、Zoomの使い勝手がおかしくなるなら、普通の感覚で使えるスマートフォンやタブレット、ノートPCに手を伸ばすと思う。実際に筆者はそうしていた。
スマートフォンのユーザビリティーは優れている。ほとんどの新しいスマートフォンは、素晴らしいカメラや、ほぼすべての用途に最適化されたアプリを搭載しており、タスク間をすばやく行ったり来たりすることができる。私たちはその速さを当然のこととして享受している。Surface Duoでさまざまな問題に遭遇した後だったので、スマートフォンの快適さを改めてありがたく感じた。Surface Duoが同じ速度で動けば、このデバイスを大好きになるだろう。もしかすると、使いづらさの原因のひとつは、ソフトウェアの対応がまだ十分ではないことなのかもしれない。Googleが、まだAndroidを2画面向けに完全には最適化できていないからなのかもしれない。あるいは、Microsoftが自社のエコシステムに合った2画面デバイスにどう取り組むべきなのかをまだ模索している段階なのかもしれない。それらすべてが原因なのだと思う。筆者は2画面デバイスに慣れるのに苦労しており、Surface Duoもその負担を軽減してはくれない。
より大容量のRAMやより高速なプロセッサーがSurface Duoに搭載されていたら、どうなっていたのだろうか。Qualcommの「Snapdragon 855」と6GBのRAMは、高解像度のデュアルディスプレイには不十分であるように思えるし、使っていて、それを実感する。5Gがサポートされていないことにも疑問を感じる。2020年には、ほとんどの主要なフラッグシップスマートフォンが5Gに対応しだしていることを考えると、なおさらだ。未来のネットワークに対応していないSurface Duoがどのようにして未来のスマートフォンになれるのか、よく分からない。
だが、最先端のテクノロジーを採用しても、快適な体験を実現できるとは限らない。筆者が特定のデバイスを常用するのは、それらのデバイスが思いどおりに機能してくれて、筆者もそのデバイスのことを理解できているからだ。または、(Oculus Questのように)機能や使い勝手が非常に素晴らしく、何度も繰り返し使いたくなるデバイスもある。
Surface Duoのカメラ(1つしかない)は良好だが、決して秀逸ではない。Zoomで使えているが、撮影した写真やビデオクリップの中には、期待していたほど画質がよくないものもあった。動画の自動手ぶれ補正機能は、特に不安定であるように思える。カメラは、本体がどのような状態にあるときでも利用できるように、隅の方に配置されているが、中心からかなり離れているため、本体を立てた状態でZoomを快適に利用することはできない。いつも横を見ているような印象を与えてしまう。
第5段階:未来へのゆっくりとした歩みを受け入れる
スマートフォンは明らかに進化している。あらゆることをこなせて、そのサイズからは考えられないほど強力な機能を持ったマシンとなっている。だが、スマートフォンを根本から作り直すのは、容易なことではない。MicrosoftがSurface Duoで本とタブレットを組み合わせたようなデザインを試している理由も、ある程度理解できる。形状は理にかなっているが、速度と処理能力、機能が追いついていない。確かに、Galaxy Z Fold2と比べると600ドル安いが、おそらく搭載されるべきだった機能が省略されているのも事実だ。
完璧な折りたたみ式2画面デバイスが、今後登場する可能性はある。GoogleはまだAndroidを2画面デバイスに完全に対応させていない。Microsoftは2021年、もう一度、Windowsベースの「Surface Neo」で完璧な折りたたみ式2画面デバイスに挑戦するだろう。このアイデアが消え去ることはない。そして、スマートフォンが最初に広く普及したときのように、もっと多くの実験的な製品が登場するはずだ。
Microsoftは、この最初のSurface Duoでうまくいかなかったことを改善するために努力している。次のデバイスでは成功するかもしれない。あるいは、失敗に終わった実験的なウェアラブルのように、Surface Duoも一瞬で消え去るかもしれない。筆者は、実験しようという考えは大好きだが、快適でない実験的なデバイスを使うのは好きではない。そして、現時点では、Surface Duoがどのようなユーザーを想定しているのかも見えてこない。だが、1年後には、より良いソリューションが登場している可能性もある。筆者はMicrosoftの担当者との会話でそう思えたし、最終的に、それが現実になったら嬉しい。だが、今のSurface Duoでは、まだ実現できていないのが現状だ。
そのほかの特記事項
忘れそうになるが、携帯電話でもある
携帯電話としての機能は、本格的には試さなかった。ずっと家にいるからだ。インターフェースにすでに悩まされているので、携帯電話としての使い勝手を確認することまで気が回らなかった。通話に問題はないようだったが、自宅にいるので、電波の強度や5Gへの非対応については、まだコメントできない。通信速度を向上させる4x4 MIMOに加えて、物理SIMとeSIMもサポートする。筆者はAT&Tのテスト用SIMを使用している。
バッテリーは丸1日持続しそう
3577mAhのデュアルバッテリーは15.5時間の動画再生が可能で、18ワットのUSB-C高速充電器が同梱されている。これまでのところ、バッテリー持続時間は、筆者のニーズに十分対応しているようだ。今はずっと自宅にいるので、電車で長時間通勤するようになったらどうなるのかは、まだ分からない。
Wi-Fi 6には非対応
Surface Duoは次世代のセルラーネットワークやWi-Fiをサポートしない。それでも、Wi-Fiは問題ないように思えたが、iPhoneやノートPCよりも早く自宅のWi-Fiの圏外になることがあった。速度は、低料金の100Mbpsの接続と同じくらいだった。
ストレージ容量は2種類
1399.99ドルの128GBモデルと1499.99ドル(約15万8000円)の256GBモデルが用意されている。ストレージの拡張はサポートされていない。
一部のアプリがフリーズするように思える(アプリのアップデートが必要か)
ほとんどのAndroidアプリは正常に機能したが、「Minecraft」やNetflix、そのほかのいくつかのアプリでは問題が発生し、再生がおかしくなったり、スワイプ操作でアプリから離れることができなくなったりした。アプリのタッチゾーンと、OSのスワイプでアプリを画面から消す操作が相互干渉しているように思えることもあった。
ゴム製バンパーは便利
見た目は悪くなるが、Surface Duoを保護するために使った方がいいだろう。つかみやすくなるし、本体が滑るのも防いでくれる。